上演台本:パラダイス

 パラダイス(上演台本)

 

中村大地

 


◯人物(実際に舞台上に出てこない人も含む)


A 沢崎 団地居住者。50代後半。認知的な疾患があり要介護だが独居。障害年金で暮らしており、行政の紹介で移り住んできた。

B 清水 居住者。30代後半。遠藤さんの隣に暮らしている。

C 高知 施設職員。20代なかごろ。

D 日高 居住者。60代。若い頃から団地に暮らしている。


遠藤 居住者。寝たきりで介護を必要としている。

遠藤ケイ 遠藤の子ども。ケイさんと呼ばれる。2日前から行方不明。

間宮 職員。高知の先輩。 

大野 施設長             

まいさん 清水のパートナー。

ニッシー 昔の友人。亡くなっている。


E 久保田 ケイさんの友人。


 

 

◯場面

 

              ある日の夕暮れ。団地の集会室。

 


 

凡例

〈動き〉、(省略される言葉)、[会話の主導権を持たない人の相槌]

日本。超高齢化に突入した社会では、元々ニュータウン開発などで建てられた団地など、居住者が大きく減ったため生まれた空き物件の利活用として、高齢者や精神疾患のある方々を住まわせており、また家族同士で暮らすことや、単身世帯の入居も許されている。ケアラーや介護者の人手は足りず、手荒で強制的な管理が成されているものか、無法地帯と化しているものもあると言う。

 

そうした団地の1階には集会室がある。郵便局があり、食堂があり、小さな商店がある。それぞれ、日中の間は常駐するスタッフがいる。駅まではそれなりに距離があり、歩くには遠く、バスもほとんど通っていない。

とはいえ無法地帯だとかいった言葉は傍から見た話で、渦中ではその限りの中の、ルールの範疇で快適な暮らしを成すための、居住者らなりの不断の努力が成されていた。集会場は文字通りミーティングルームであったし、レクリエーションの場であった。集会場の目の前にある公園に、健康遊具を誘致したのは住民の提案だったし、集会場のWi-Fi環境が入れられたのも住民の提案だった。

住民の一人、遠藤さんの子が勝手に団地を出ていってしまってから丸2日が経とうとしていた。住居には鍵がかかっておらず、財布や電話は持ってでかけていなかった。


Scene1

 

集会場。午後。やや肌寒いが、集会場の外のスペースでは遊んでいる子どもたちがいる。集会場は開いていて、職員であるCがいる。Aが現れる。

 

C 〈Aの視界に入って〉こんにちは、

A どうも、

 

カウンター越しに水場がある。冷蔵庫の隣の食器棚に人の名前のはられたマグカップが、そこによく来る人のものがごちゃごちゃとしている。ポットがあって、コーヒーやティーパックがつまれている。そこから一つを取り出しお湯をいれ、1分待つ。茶殻を流しに捨ててから、ソファにつく。

 

A 〈外を見て〉今日、学校無いのかな、

C え?

A 学校無いのかな、

C あ、〈外を見て〉子ども?

A そうそう、

A こんな時間にいないよね、

C いつも(は)、そうすね、

A にぎやか、

C にぎやか、

A 今日何曜だっけ、

C 金曜です、

A ないのかな、

C そうすね、

C まだ早い(時間に)、たしかに、

A ね、

 

              間。

 

C 紅茶ですか?

A うん、紅茶、

A コーヒーはもう飲んだから、自分の部屋で、

C うんうん、    

C 終わったら洗っといてください、

A うん、

C こないだ洗ってなかったから、

A うそ、

C 置きっぱなしのまま忘れちゃってましたよ、

A そうだっけ、

C うん、部屋戻っちゃって、

A そうか、

A ちょっと、(わたし)そういうところあるから、[C うん]気をつけます、

 

              やや間。

 

C 保育園の子かもすね、

A なにが?

C (窓の外)遊びに来てるの、

A ああ、

C 先生とかいないっぽいですけど、

 

              間。

 

C 最近の保育園の、幼稚園の?かわかんないけど、なんか子ども乗っける台車あるのわかります?[A 台車]なんかドナドナみたいな、ドナドナっていうか、外出するときに子どもが多分勝手にどっか行かないようにってことで、子ども10人とか柵のある台車の中にいれてでらんないようにして、それでそれを先生が押しながら町中散歩みたいなのしてるの見たことないですか?

A 知らない、

C あれ(台車)、自分は乗った記憶がまったくないんですけどいつからあるんすかね、

C はじめて見たときすごいびっくりして、なんか台車?リヤカーのなかに(子ども)閉じ込められてるというか、ドナドナ、なんか全然自由がない動物みたいに見えるんですよね、言い方悪いですけど、

A ドナドナ、

C 頭の中ではその台車乗ってる子どもを見るともう自動的にドナドナが流れるんですよ、わたしのなかでは、ドナドナ~って、頭ん中で、

A えー、

A ここの子もそう?

C あー、ここじゃみたことないけど、駅まで行くといますよ、

A へー、

C 駅向こうの幼稚園か、だと思うんですけど、たまにすれちがいます、

A いかないからなー、

C そうすよね、

 

              間。

 

A すごい今頭の中では人生ゲームのあの棒と車があるじゃん、棒っていうか人ね、あの人がすごいこう、めちゃくちゃたくさん車に乗ってうごめいている、

C なんすかそれ、

A すごい安っぽい感じで、上下に揺れてる、

C どういうことですか(笑)、

A わたしの頭の中では、

 

              間。

 

A ニッシーがくれたお土産ってもう無いんだっけ?

C え?

A 突然ですが、

C お土産、

A ニッシー、プラハとか行ったって言ってお土産くれなかったっけ?

C わかんないす、

C ニッシー、

A 旅行からニッシーが戻ってきたときに、なんかもらったやつなかったっけ、

C わかんないすけど、お土産とかもらってないですよ、

A そう、

C ここにはとりあえず、

A そっか、

C あ、でもクッキーとかならありますよ、日本のですけど

C 食べます?

A うん、うん、

 

              C、流しの方から市販のクッキーを取り出してAにわたす。

 

C どうぞ、

A あ、ありがとう、

 

              Aは受け取る。Cも自分の分を手に取る。やや間。

 

C てかプラハって、どこですか、

A プラハ…

C え、どこだろう、

 

              C、調べる。

 

C あ、チェコですって、

A プラハ?

C プラハ、

A チェコ、

C チェコのプラハって言われても、お土産なにか全然ピンとこないすね、

A プラハ土産、

C なんだろう、

A チョコじゃない?

C チョコかー、

A チェコ、チョコありそう、

C チェコチョコ(笑)、

C むちゃくちゃ偏見ですけど、ヨーロッパすべての国お土産にチョコありますよね、

A たしかに、

C  偏見ですけど、

 

              やや間。

 

C そのニッシーさんって人がプラハに行ってたんですか、

A    ニッシー?

C その、お土産くれたっていう、

A ああ、そうそう、

C 結構、旅行好きな、

A そうそう、

C 一緒に行ったりとか、

A うん、あった、

C へえー、

A なんか行ったのはなんか、伊豆っていう

C 伊豆、

A うん、急にめちゃめちゃ国内なんだけど、伊豆とか[C うん]いったことあるよ、

A 伊豆の、伊豆まあ、海の近くとかいってでも別に泳ぐとかじゃなくて、というか割と11月とかで確か、海岸散歩したり、みたいな、で温泉入って、みたいな、そういう緩めの感じだったと思うんだけど、それですごいなんかニッシー直接関係ないんだけど、若い絶対結婚披露宴終わりだろっていう、若い人たちが、スーツ着て白いネクタイしててだから絶対披露宴参加者だな、みたいな、披露宴参加者しかもらわない紙袋持ってて、のがその海沿いにいてさ、ふくらはぎのあたりまでスーツたくし上げて靴下脱いで、あれ絶対二次会までのつなぎの時間だったと思うんだけど夕方、なんか海行こうぜ、みたいな絶対勢いで海行こうぜってなってる人らがいてっていうのがあって、わー青春だねー、みたいなことをニッシーと眺めてたっていうのを覚えている、

C へー、


Scene2

 

              Bが現れている。

 

B どうも、

C ああ、さっきはありがとうございました、

B いやいや全然、

B 沢崎さん、こんにちは、

A ああ、

B こんにちは、

A どうも、

B 休憩中、

A そうね、まあずっと休憩みたいなもんだけどね、

B いいね、

A 暇だよ、

A どっかいくの、

B 駅の方に、映画でも観るかと思って

A いいね、

C まいさんは?

B は、行かないって、

 

              やや間。

 

B (Cに)無事着いたんですか?遠藤さん、

C あ、はい、

C 病院着いて、わたし今日こっちのシフトもあったから間宮さんに病院来てもらって、(わたしは)入れ替わりで戻ってきて、

C さっき間宮さんから電話来て、今遠藤さん一通り検査とかしてもらって待ってるってことだと思うんですけど、その病院の人が言うにはこのままこれで一旦入院って感じらしいです、

B そうか、

A 入院?

B 〈Aに〉遠藤さんってあのこないだ、一昨日?お子さんいなくなっちゃった人いたでしょ[A ああ]、わかる?ケイさんって、

C 沢崎さん会ったことないかもだけど[A うんうん]、

C ケイさんまだ見つかってなくて、見つかってないから家で遠藤さんの面倒見る人いなくて入院ってことになって、

A ああ、

C やっぱ1人だとご飯とかトイレとかできない感じで、

B そうねえ、

C で今朝その部屋から病院移すのに、介護タクシーの人呼んでやったんですけど、遠藤さんの部屋3階じゃないすか、3階で、降ろすの清水さんとまいさんに手伝ってもらって、

A えー、それは朝から、

C そう、やってもらっちゃって、

B となり遠藤さんの部屋だから、朝めっちゃ騒がしくて、だから出たらすごい何あれ、担架みたいなの?遠藤さん寝たきりだから、抱っこひもみたいなののついた布の担架みたいなのがあって、それで運ぼうとしてて、あと着替えとか色々荷物とか持たなきゃみたいなんでバタバタしてて、

A そんなことが朝から、

B うん、朝から、

A 大変だったね、

C すみません、起こしちゃって、

B いや、あのあと寝たから大丈夫、

C 助かりました、

B で、寝坊して今っていう、

C ありゃ、すんません、

B いやいや、大丈夫大丈夫、

             

              やや間。


A 遠藤さん元気そうだった?

B あー、そうですね、なんかなんで今家から出て行かなきゃいけないのかとかあんまりわかってない感じでしたけど、 

B その運ぶの手伝うときになんか色々物持ったりで、他人の部屋無茶苦茶久しぶりにはいって、団地同じだけどそりゃ他人の家なんて別に(行かないし)、そもそも遠藤さんなんてもう姿を見たのがほんと何年ぶりだ?って感じで、ずっと家の中から出てこないから、妖精とか言われてたくらいで(笑)、ケイさんもそうだけど、ここのお祭りとかイベントごとも、調子崩してからは全然でてこなかったから、それが、ケイちゃんの判断で止めてたのかはわかんないけど、

B だからわたしの記憶の最後の遠藤さんはだからすごい昔の、モスグリーンのカーディガン着て、今日はパジャマだったけど、いつかとか忘れちゃったくらい昔の遠藤さんは、モスグリーンのカーディガン羽織って下にスウェット的な緩めの服来た、で食堂の前で煙草吸ってるっていうのがその、わたしの記憶の遠藤さんの姿で、

B それから考えるとすごいなんかもちろんやつれたなっていうか、ほっそりしてて、髪とかもなんかめちゃ伸びてて、だから、なんかその記憶の遠藤さんの姿と全然合致しないというか、今目の前の遠藤さんは遠藤さんなのか?ってぐらいなんかかけ離れてて、

B  元々(の記憶)と全然ちがって、

 

              やや間。

 

B  だって、何年だ?ほんと5年は姿を見てないと思う、

C  そんなに?

B  うん、たしか、

B  だって会ったことなかったでしょ、

C  そうすね、でもそんなに長いとは思ってなかったです、

B  長いはずよ、

C  こういう団地みたいなんで隣の人で5年会わないってなかなか無いですよね、

B  そうかな、

C  いや、わかんないすけどすごい想像で話してますけど、

B ちっちゃい頃はもちろん、知ってたけど、

C あ、遠藤さんは元々の人なんだ、

B そうそう、ケイちゃんもだから、小さい頃から知ってる、

B 知ってるって言ってもあんまそんな、すごい友達ってわけでもないけど、

A  こないだ会ったけどね、

B  え?

A  売店のとこでフリーマーケットやってたときいなかった?

B  いや、いないよ、

A  あれ、なんかいなかったっけ、

B  いないいない、いたら話題になってたでしょだって、

A  そうだっけ、

B  うん、

A  そうか、

A  でもあれだよ、こないだ一緒に海に行ったよ、

B 遠藤さんと?

A  こないだ、

B え、

C 〈Bに〉こないだとかじゃないかもですね、

B  うん、遠藤さん、最近ずっと寝たきりだったんだから、

B  多分違う人の話じゃないかなあ?それ、

A  そうか、

A  そうかもしれない、

C  海行ったのはニッシーの話でしょ、

A  ニッシーね、   

B  ニッシー?

C  なんかさっき昔旅行に行った話のこと言ってて、

B  へえ、

C  ニッシーと海に行ったんだよね?

A  ああ、行った行った。

C  〈Bに〉それの話かな、

B  ああ、

 

              間。B、かばんから財布と携帯を取り出す。

 

B ちょっといい?

B すごいあの〈Cに〉唐突なんだけど、これ言い訳、朝タクシーの時すごいみんな急いでバタバタしてたからっていう言い訳を先にしておくんだけど、これあの、たぶんケイちゃんのやつで、

C え?

B いや、盗んだとかではなくて、なんかこれ多分あの入院とかするのにお金とか必要だろうなと思って、でだから朝みんなで運んだ時に持って(出て)、でもタクシー乗せてバタバタってみんな行っちゃったから渡しそびれてて、今渡すんだけど、

B  あと家の鍵かかってなくて、鍵かかってなかったよね遠藤さんのところ [C はい]、だから、あのそういうのもあって、すごい持ってきちゃったからさ、これ、預けといてもいいかな、

C え?

B 鍵かかってないところにあるの危ないかなと思って、

C ああ、えー、どうしよ、

B なんかあるでしょ、預かる場所、

C そうすね、えー(どうしよう)、預かっときます、

B ごめんごめん、

 

              間。

 

A 戻って来れるといいけどね、

B  遠藤さん、

A  そうそう、

B  そうねえ、

             

              Cは、財布と携帯を控室のようなところにしまう。やや間。

 

C  清水さん、出かけんじゃないんすか、

B  そうだ、そうだわ、

A  どっか行くの?

B  駅の方に、映画でも観ようかと思って、

A  いいなあ、

B  行きます?

A  いや、大丈夫、

B  そうすか、

A あの、タバコ買ってきてもらえたりする?

B あ、いいすよ全然、

C ここにないんでしたっけ、

A ここのはないよ、

C そうなんだ、

C 身体に悪いからとかか、

B かね、

C わかんないけど、

B  酒はあるのにね、

C たしかに、

B 大野さんがこういうのって決めるの?

C そうすね、施設長が、

A 食堂のさ、投書箱に入れとくといつか応えてくれるのかなって思って入れてんだけど、

B 煙草入れてくれって?

A そうそう、

C その、他の人のもですけど読んではいます、

A 読んではいるんだ、

C 全部読んでいますとしか言えないんですけど、

A うん、

B なんかお返事してくれたらいいのに、

B 掲示板とかでもいいからさ、一個一個理由つけてくれたら納得するけどね、

A そうかもね、

B ね、なんか(そういうの)、

C 聞いときますね、

A いや、いいよ、

C そうすか、

A どうせ健康に悪いからとか、でしょう、

C まあそうすね、

A 健康ね、

A ほっといて欲しいけどね、

A (吸っても吸わなくても)どうせ死ぬし、どうせ死なねえし、

B どっちにしろ死ぬって?

A  そうそう、

B  まあ、そうすねえ、

 

              長い間。

 

B 行きますわ、

A ああ、

B バス逃すとまずいし、

C 確かに、

B なんでしたっけ?

A なにが?

B 銘柄、

A セブンスター、

B セブンスター、はい、

B 買ってきますじゃあ、

A お願いします。

 

              A、財布を探して、ないので立ち上がる。

 

A  財布、部屋だわ、

B  あ、いい、買ってくるからあとでお金ちょうだい、

B  何個?

A  3、

B  3、オッケー、

A ありがとう、

B じゃあ、

C じゃあ、

 

              B、去る。間。

Scene3

 

C 〈Aに〉遠藤さんの部屋に入って、わたしはじめてあのこの団地の人が住んでる部屋に入って、入ったんですけど、リビングを抜けてさらに奥の部屋に遠藤さんの部屋はあって、部屋は、なんか芳香剤なのかわかんないけど、人工的な、科学の?、なにかの臭いを消すための臭いみたいなのがして、なんか、なんて思ったらいいんだろうなというか、それはなんかの臭いって今言ったけどたとえば排泄物とか、そういったものの臭いを消すような臭いで、なんか、生き物の臭いを消すための臭いな気がして、ちょっとなんか、なんていったらいいのかわかんないけど、わあ、って思ったっていうか、

C  そう言う人ももちろん結構住んでるんだろうなあっていう風に思ったというか、

 

              長い間。

 

A  病院のにおいみたいな、

C うーん、そうですかね、

A わたしからもする?

C えっ、

A そういうにおい、

C え、

C いや、

A 自分ではわかんないもんじゃん、そういうの、

C ああ、

A 加齢臭とかもそうでしょう、

C あー、でもしないと思う、

A そう、

C 沢崎さんってでも、あんま煙草吸ってる人のにおいしないですよね、

A あ、そうなんだ、

C はい、

C (吸ってるかどうか)全然わかんないす、

A そんなに吸わないからかな、

C (なんでかは)わかんないですけど、

 

              間。

 

C あのすんません、突然なんですけど、ご飯食べてきていいすか、

A ああ、別にいいんじゃないの、

C すみません、今日朝から食べそこねてて、

A ありゃ、

C 入院手伝ってたから、

A 入院?

C ああ、遠藤さんの、

A 遠藤さん、

C 遠藤さん、お子さんみつからないから、入院することになって、

A そっか、

C うん、

C 沢崎さん、ここにいますか?

A  うん、そうね、

C か、ご飯一緒にいきますか?

A いや、さっき食べちゃったから、

C そうすか、

A お金も今持ってないし、

C うん、

A ご飯を食べるのは大事だよ、

A 食べたほうがいいよ、

C はい、

 

              やや間。

 

C 昨日、ちょっとあれで、すみません、

A え?

C いやあの、ちょっとあれですごい言い難くて申し訳ないんですけど、昨日会議で大野さんが決めたっていうか、大野さん発案で最終的には職員全体で多数決で決めたんですけど、遠藤さんのことがあって、これからその集会室から住んでる方々が各自、自分の部屋に戻られるときはこの短い距離だけど職員つけるときはサポートしようってことになって、(対象となるのは)全員じゃなくて人によるんですけど、っていうのは、ケイさんのことは例外というか例外かもしれませんけど、ケイさんに限らずこう、人知れずのうちにこの団地の外に出てしまうことは、徘徊とか含めて未然に防ぎたいですねっていうのが、職員としてはあって、っていうのが決まって、[A うん]で沢崎さんのことは、そのサポートしようっていう方に含まれてるんですね、

A サポート、

C すんません、大丈夫だとは思うんですけどでも一応そうなって、なんかそれであのだから、今もしここに沢崎さんいられるなら、わたし戻ってくるまでいてもらいたくて、すみません、もし部屋に戻られるなら付き添うんですけど、それであの、でもご飯食べてなくてまだ、

A 高知さんがってことだよね、

C そう、なので、ちょっとご飯は食べたいぞっていうのがあって、すみません、めっちゃ、さっと戻るので、その間だけ30分とかかもしれないけど、ここに鍵をかけて行ってもいいですか、

A 鍵、

C 昨日の今日で決まって、まだみなさんに説明とかする前の、あいだの時間なんで、なあなあにしても良いとは思うんですけど、すみません、その、わたしはわかんないですけど、大野さんたちで決めたんですけど、や、もちろんわたしもそのほうが良いかなと思って、鍵をかけていきたいんです、だから、その間沢崎さんはここから出られないんですけど、

A ああ、

 

              やや間。

 

A いいですよ、

C あ、そうですか、いいですか、

A うん、

C すみません、ありがとうございます、

 

              やや間。

 

A キッチンの水音が全然止まなくて最近、ずっとポタポタポタポタ流れててね、お皿を洗うときに使うでしょう、使ったあとに栓をきっちり止めてるつもりなんだけど、うちのあのレバーを、レバー引き上げて水を止めるタイプの蛇口なんだけど、引き上げてもポタポタって音が止まなくて[C はい]、それはもう諦めてんだけど、寝てるときそのポタポタの音が家のキッチンの方からポタポタする音が水の音じゃないみたいに聞こえるときがあって、水の音ではなくそれが誰かの足音なんじゃないかって、誰かいるのかなって勘違いするときがあって、布団から出てキッチンであ、ポタポタは水の音だったかって確かめると気にならなくなるんだけど、

A でも若干不規則に、時々ポタポタは止まったり、止まらなかったりして、その不規則さがなおのこと誰か人間の気配を思わせる音になってて、

C なんか不吉な、

A いやでも、その人間の気配のようだと勘違いする自分のことを放し飼いにするときもあるんだよ、

C え?

A 放し飼いにするというか、ポタポタって音が人の足音に聞こえたら、その足音のイメージのままに自分の頭の中をしておく、誰かいるかもな、って思っておく、っていうことをするときがあって、

C ああ、

 

              やや間。

 

C 怖くないんですか、それは、

A うん、怖くはない、

A 誰かいるなっていうのは、一人よりは、

C そうすか、

 

              間。

 

C 直したほうが良いときは、言ってください、

C 水道屋さんとか、連絡とりますから、

C ひどいことになる前に、

 

              やや間。

 

A うん、

A ありがとう、

 

              やや間。

 

C すみません、ご飯食べてきていいですか、

A ああ、どうぞ、

C すぐ戻ります、

A いってらっしゃい、

 

              C、去る。集会場には鍵がかかる。間。  


Scene4

 

              外の小学生はいつの間にかいなくなっている。

 

A しょうがないか、しょうがないか、


    間。


A (こども)いなくなったか、

A しずか、

 

Aは流しに下がってお茶のおかわりを用意する。途中で一応、扉の前に立って鍵を開けようとするが、開かない。長い間。         


Scene5

 

ケイさんの電話がバックヤードでなる。Aは出ようかどうか逡巡するが電話を取る。

 

A はい、

E もしもし、

A もしもし、

E もしもし、

A はい、

E あれ、


    やや間。


E あれ、これ遠藤ケイさんの電話ですよね?

A ああ、わたしは遠藤ケイではないです、

E うん、

E え、ケイちゃん近くにいませんか?

A いないです、

A なんか勢いで電話に出ちゃって、

E 勢い、

A すみません、ケイさんは近くにいなくて、

E ええ、

A いなくなってて、

E いなくなってる、

A はい、

E え、いつ戻りますか?

A ケイさんが?

E うん、

A えーと、わかんないです、

E え、

E いないっていうのはどういうことですか?

A どういう、

E いないっていうのは、ずっといないってことですか?

A え、うーん、

A わかんないです、

E わからない?

A ここにいなくて、

A 遠藤さんとこの2人はずっと自分の部屋のところにいて、ほとんど会ったことなくて、

E ああ、

E でも電話は持ってる、

A そう、電話は持って、今話してるっていう、

E 変なの、

A たしかに変ですね、

E うん、

 

              やや間。

 

A 遠藤さんたちはここには全然こなくて、

E ここ、

E ここって何処ですか?

A ここ?

E あなたの今いるところ、

A ここ、

A ここは集会場っていう、わたしたちの暮らすところの、色々人が集まったりするところ、

 

              Aは、Eにビデオのようなモードで、集会場の風景を見せる。

 

A 今はわたししかいないけど、

A さっきまで子どもがすごい遊んでて、こんな時間に珍しいよね、

E 確かに学校とかの時間ですねまだ、

A さっきまでいたんだけどいなくなっちゃった、

 

              やや間。

   

E あー、あの、すみません、

A はい、

E お名前聞いてもいいですか?

A わたしの、

E そう、

A 沢崎です、

E 沢崎さん、久保田です、

A 久保田さん、

E はい、

A はじめまして、

E はじめまして、すみません、自己紹介が遅くなって、

A いやいや、こちらこそ、

E 沢崎さんは、そこに住んでるってことですよね、

A そう、この集会場には来てて色々お世話になってて、でも自分の部屋は別のところで、

E ケイちゃんもお父さん、遠藤さんとその団地に住んでるってことですよね、

A そうそう、


    やや間。


E その“いない”っていうのは、ケイちゃんとは連絡が取れてないってことですか?

A そうですね、連絡取るというか、

E そっか、電話これじゃん、

A はい、

E だから連絡は取れてない、

A はい、

E だから、どこにいるかもわかんない、

A そうですね、どこにいるかもわからない、

E そうですか、

E いつからかとかわかりますか?

A いつから、

A ちょっとわかんないんです、ごめんなさい、

E あ、いやいや、

   

    間。


E だからなんかあれですよね、ケイちゃんちょっとでかけてるとか、トイレ行ってるとか、そういうことじゃないってことですよね、

A え、

E あ、いや、

E お父さんはどうされてるんですか、

A お父さん、

E 遠藤さん、ケイちゃんのお父さん、

E ケイちゃん、介護してるって言ってたから、

A 遠藤さん、

A 遠藤さんもずっとここには来てないです、

E ああ、さっきも言ってましたね、来てないって、

A そうでしたっけ、

E うん、すみません、わたしが混乱してて、

A わたし、あんまり色々覚えてられないところがあって、すみません、

E ああ、いやいや、そういうことか、

E 動揺してて、すみません、

A いや、すみません、


    間。


E なんか、失踪みたいなことか、

A 失踪、

E ケイちゃん、行方不明ってことですもんね、

A 行方不明になっちゃったんですか、

E そういうことなのかなって今、沢崎さんの話聞いてたら、

A そうか、心配ですね、

E 心配です、

A 見つかると良いけど、

   

    長い間。


A 仲良いんですか、

E え、

E ケイちゃんとですか?

A そう、ケイちゃんと、

E そうですね、

A 学校の友達とか、

E いや、


    やや間。


A すみませんなんか急に、

E あ、いえ、

E いや、なんかよく行ってた飲み屋が同じっていう、

A 飲み屋、

A そこで初めて会ってってことですか?

E はい、

A 仕事とかバイトとか、全然そういうのじゃなくて、

E そうそう、正確にはわたしがバイトしてたところによくお客でケイちゃんが来てて、っていうところで知り合ったと言うか元々はそれで知ってて、

A ああ、

E ご存じないかもですけど、ケイちゃんは親御さんのあれでそっちに戻る前はこっちの大学出てそのまま就職して仕事してて、やめて戻って今そっちで暮らしてるっていうことなんですけど、よく飲みに来てて、

A お酒とか飲むんだ、

E うん、好きだったですよ、

A そうなんだ、

E で、なんかでも、仲良くなったきっかけっていうのは別にあって、別の店で会ったというかたまたま、その会ったとこが超渋い、なんでそんなとこいるのっていう立ち呑みのカウンターだけの、蕎麦屋というか蕎麦も食べられる飲み屋っていう、おじいちゃんが一人でのんびりやってる小さな店があるんですけど、奥のテーブルになんか文庫本が色々置いてある本棚があって、

A 本棚、

E そうそう、そんな数は多くなかったけど、

A バーみたいな、

E 大きさはそうそう、小さめのバーくらいの、でも蕎麦とか食べられるところだったんですけど、そこであれ、ケイさんじゃん、みたいな、偶然、わ、こんなとこ来るんですねって話になって、結構来てるよって、わたしも結構行ってたんで、あれじゃあむしろなんで今まで会わなかったのかなみたいな話になって、それで意気投合、〈ウケて〉意気投合とか言って(言い方)、でそこから仲良くなってっていう(きっかけ)があって、以来だから連絡とったり、わたしが働いてた店に遊びにきたりってのもあったし、[A うん]仲良くしてましたね、

 

              長い間。

 

E でも全然わかんなかった、

A なにが?

E そんなにいや、大変だっていうのはすごい想像できるんだけど、でもなんか大変な感じとか全然出さないから、

A ケイさんが、

E うん、

 

              やや間。

 

E いや、めっちゃ愚痴みたいな感じで、お父さん漏らしたのに漏らしてないって言って全然お尻拭かせてくれないとかすごい、実際言ってたのは覚えてるんですけど、大変だねマジでとかわたしも言ったけど、ケイちゃんって多分、そういうの面白話みたいに話すところあって、あるんですよ[A おもしろ?]、大変なことを面白話みたいにするところがあって、だからそういう意味では大変だねとかあわせてるけど、その大変さの度合?レベル?みたいなことを、全然わかってなかったなって、

A わかってなかったって?

E いや、そのだって多分大変だからいなくなっちゃったんでしょうケイちゃん、

A そうか、

E わかんないけど、

A そうね、

A そうかもしれない、

E だから、なんか、気が付かなかったんですよ、

E どう気づいていいのか、わかんなかったけど、

A なかなか、

A 気がつけなさそう、そういうこと、

E うん、

 

              間。

 

A なんか思い出したんだけど、

E はい、

A このタイミングで全然関係ないかもしれないけど、遠藤さんとわたしも旅行に行ったことがあって、

A 夏じゃなくて11月とかそんな海はいるとかじゃなかったんだけど、でも伊豆に行って、なんでその時期で伊豆行ったのかわかんないんだけど、温泉旅館みたいなとこ泊まって、宿のご飯食べたあと夜、コンビニに酒買いに行こうってなんか、海岸沿い歩いてたら遠藤さんが急に、ああ、ここ来たことあるわって言い出して、[E え?]、ここ来たことあるとか、なぜ急に夜になって思い出したの、昼も通ってたじゃんって感じなんだけど、昔いとこ家族と、って、いとこ家族とかとここの海岸で夜来てバーベキューしたのがほんとここだと思う、同じとこだと思うって突然話し出して、この話がわたしの記憶ではコンビニ行って戻ってくるまで、なんなら宿くらいまで続いてたと思うんだけど、

E 海見て話してるんじゃなくて、

A そうそう、海見て話してるんじゃなくて歩きながら、自分の小さい頃の記憶みたいな感じだったと思うけど、そのいとこ家族に年近めの兄弟がいて、そのいとこの人と一緒にバーベキューしたときにすごい遊んで、子どもなんてお腹いっぱいになるともう遊ぶしかないじゃん、ないから、なんかそのバーベキュー周りの砂浜でいい感じの石を探そうってなったんだって、その子たちと、どの石がベストかみたいなのを探して比べて、いい感じのやつをなんか夜、海に向かって水切りとかしてめっちゃ遊んだのが、まさに今この辺の海だったと思うんだよ、あのこっちの海の方から道路またいだ向こうに見えるレストランとか、ほんとこれだった気がする、って、言ってて、

E えー、

A っていう話をしてくれたのをね、思い出した、

 

              やや間。

 

E でもそれ、なんかめっちゃ川遊びっぽいですね、

A 川、

E だってそんなベストな石とか見つけるとかいって、ベストな石って海岸にあります?

E これはこう、完全にイメージですけど、砂浜にそんな丁度いい石ってあるかなって、

A あー、

E 水切りって海でやったかな?って思って、

A 確かに、

A なんかでももしかしたら、そんときもこんなふうに、わたしは、それ絶対川でやったでしょみたいなこと言ったかもしれない、

E あー、

A 今みたいに、

E 今みたいに、

A いや絶対ここだよ、みたいな、喧嘩ってわけじゃないけど、軽く言い争いとかしたかもしれない、

E はは、いい大人が、

A そうそう、いい大人だよほんとに、

E なのに、

A いや絶対この辺だってとか言って言い合ってたような気がする、

E ほんとですか、

A わかんないけど、

  

              間。

 

E すごい当たり前のこと言ってもいいですか、

A え?

E 遠藤さんに、ケイちゃんが介護するお父さんに会ったことないんですけど私は、

A そうなんだ、

E うん、ケイちゃん越しにしかしらなくて、しかもその介護がどうこうって話以外は聞いたことがなくて、

A ああ、

E めっちゃ今、人なんだなって思いました、

A 遠藤さんが?

E そう、

A なにそれ、

E や、当たり前のことですが、

E 遠藤さんも人なんだなって、

A そりゃそうでしょ、

E 私の頭の中では、わかってるけど会ったことのないケイちゃんのお父さんはなんかね、首輪と言うか、足かせみたいな感じだったから、[A 足かせ]いや、勝手にね、ケイちゃんの足かせみたいに思っちゃうこともあって、わかってるんだけど人だっていうのは、でもなんか、そう思っちゃうところもあって、[A うん]、でも人なんだなって言うのをすごい、

A 今の話で、

E ええ、なんか、

A なんで?(笑)

E いやなんか、わかんない、勘違いかもしれないけど

A どうだろう、

E はは、

 

              Dが扉の向こうに現れる。

 

D あれ、開かない?

D おーい、

D あいてる?

D おーい、

D あれ、

A 開かないんだよ、いま、

E え?

A あ、いや、人が来たんだけど、

E ああ、

A あ、

 

              Aはビデオ通話にして見せてみる。一応。

 

A なんかね、鍵がかかってて開けらんないんだよ、ここ、

E 集会場なのに?

A うん、

A さっき職員の人が鍵をかけてて、出てっちゃった、

E え、

A 中からは開けられなくて、

D あれ、沢崎さん?

A そうです、

D 沢崎さん、いるの?

A いるいる、

E じゃ閉じ込められてるってこと?

A まあそう、

E え、そんな状況だったんですか?

A うん、

D 沢崎さん?

E ずっと、

A ずっと、

E えー、

A (Dに)いますよ、

D あれ?います?

A いますー、

D 開けてくださいー、

A 開けらんないんだよ、

D え!?

A 高知さん、戻ってこないと開けられないんだ、

D そうなの、

D 高知さんいないの?

A 今ここはわたし一人、

D えー?

D 誰と喋ってんの?

A え?

D 誰かと喋ってない?

A や、電話してんの、

D 電話、

A たぶん、もうちょいで戻ってくるけど、

D 高知さん、どこいるの?

A ご飯って、

D 食堂?

A そうそう、

D 呼んでくるわ、

A そろそろ来ると思うけど、

D いや、ひどいことするね、

A そうかな、

D 呼んでくる、

 

              Dの声が聞こえなくなる。

 

E 大丈夫ですか?

A わかんない、

E 沢崎さん、閉じ込められてるの?

A いやいや、ご飯食べにいってるだけだから、

E そうなの?

A うん、もう戻ってくるっていってたから、その間だけ、

E なんで閉められちゃったの?

A え、

A しょうがないのよなんか、

E そうなの、

A うん、

A しょうがないって言ってた、

E しょうがないのか、

A うん、

E そうか、

A うん、危ないから、なにかあるといけないからって(言ってた)

E そうか、

A ちょっと忘れやすいところがあるから、わたし、

E ああ、


    長い間。Eの部屋の方から、パートナーの声がする。


E (パートナーに)え?

E なに?

A え?

E ああ、うん、わかった、

E あ、すみません、同居人が、

A ああ、

E すみません、そろそろ切りますね、

A ああ、そうですね、


    やや間。

          

E 長電話してすみません、

A いやいや、

E ありがとうございました、

A こちらこそ、

E 話せて良かったです、

A こちらこそ、本当に、

E いえ、

E 沢崎さん、

A はい、

E お身体を大事に、

A はい、ありがとう、

E ケイちゃん連絡ついたら、連絡するように言ってください、

A わかった、

E 遠藤さんにも、宜しくお伝えください、

A うん、

E じゃあ、失礼します、

A 失礼します、

 

              Eからの通話が切れる。間。

  

Scene6

 

         D、Cとともに入ってくる。扉が開く。


C すんません、遅くなりました、

D 沢崎さん、

A ああ、どうも、

D 大変でしたね、

A いやいや、

D 大丈夫だった、

A 全然大丈夫でした、


    やや間。


A ご飯食べました?

C うん、食べました、

C ありがとうございます、

C すんません、

A いやいや、


    やや間。


D これは、なんで閉めてたんですか?

D 最近来てなかったから全然知らなかったけど、

D こういうルールみたいなのができたんですか?


    間。


C すみません、こういうルールとかはまだできていないんですけど、遠藤さんのところのお子さんのケイさんが行方不明になったじゃないですか(D うん)、それで職員の方でそういうこと、例えば考えられるのは徘徊とかなんですけど、そういうことを未然に防ごうっていうことになって、集会室から住んでる方々が各自自分の部屋に戻るときに、全員ではないですけどサポートしようっていうことになって、

D サポート、

C 自分の部屋に戻るときにスタッフが付き添おうってことになったんですね、こんな短い距離ですけど[D うん]、で沢崎さんもそういうサポートの方の対象になってて、

C それですごいあのー、まあまあややこしいんですけど、すみません、それで今日あの遠藤さん入院することになって、

D え、そうなの、

C そうなんですよ、

D ケイさん見つからないから、

C そうです、

D あー、

D 遠藤さんも調子悪くなって長いもんね、

C はい、

C それであの今朝病院に搬送して、遠藤さんのことは間宮さんが見ててもうすぐ帰ってくると思うんですけど、わたしもその遠藤さんの家から搬送やってて、

D 今朝一緒に、

C はい、

D えー、

C で病院から戻ってきて、ここのシフトだったので、ここに入って、

D それは大変だったね、

C いやいや、

D 遠藤さん、元気そうでした?

C あ、まあ容態とかは安定しててでも、まあ、入院ってことになるみたいです、

D そうなのか、


    やや間。


C それで、なんかあの、

D あ、ごめん、

C いやいや、

C あの、で、わたしここのシフトに入ったまま、バタバタしててご飯食べてなかったんですよ、お昼休みも取れてなくて、

D ああ、

C で、さっきのあの会議の話に戻るんですけど、

D 会議の話、

C あの、利用者の方が部屋に戻るときにフォローつきましょうって言うことになったっていう、

D ああ、はい、

C で、それが昨日決まったんですね、フォローつきましょうってことが、

D 昨日、

C ついてこれてますか?

D あ、うん、多分、

C 多分、

D あ、うん、

D あの、水とか飲む?

D 申し訳ないなんか、ややこしいこと説明させて、

C あ、大丈夫です、もうちょいです、

C で、フォローつきましょうっていうのが昨日決まって[D うん]、でも住民の人に説明したり掲示物作ったりっていうのはこれからなんですよ、だからまだご存じなかったと思うんですけど、来週には遅くてもそういう掲示とかみなさんに説明とかいくと思いますけど[D うん]、でその、

C 今日お昼休み取れてないって話したじゃないですか、

D 高知さんがね、

C そうです、それで沢崎さんがいらっしゃったので、ご飯食べに行く間30分くらいかもしれないけどもしこのタイミングで沢崎さんがどこかに行ってしまったら、そんなことないと思うんですけど、っていうのがもしわたしがここにいる間に起こったらあの、っていうのがあって、で沢崎さんにお願いして、鍵閉めても良いですかって言って、大丈夫ってなって、閉めて出て行ったんですね、

C でそこに日高さんが来たという、

D わたし、

C そうなんです、

D が、今さっきってことか、

C そうすね、

C っていう話です、

D あー、

D なるほど、

D お疲れさまでした、

C いえいえ、

D なんか水とか、

C ああ、ありがとうございます、

C 自分でやります、


    間。C、水をとってくる、


C 要りますか?

D あ、じゃあ、

C   お茶でいいですか?

D   うん、

C 沢崎さんは?

A    何が?

C    飲み物いります?

A ああ、大丈夫、


    間。


D すごいなんかじゃあ、わたしのきたタイミングが悪かったっていうことだね、

C いや、まあ、

D ごめんなさい、

C いやいや、全然、

D ご飯食べられました?

C いや、大丈夫でした大丈夫でした、

D なんかすみません、混乱しちゃって、

C いや、なんか、張り紙とかしとけばよかったですね、すみません、 

D じゃあ、沢崎さんもわかってたってことだ、

A え?

D あ、鍵かかってたこと、

A え?

D ここの鍵かかってたこと、

A 鍵、

D さっきまで、閉まってたでしょ、ここ?

A そうだっけ?

D うん、

A そうだっけ、

A 覚えてないや、

C でもそのときは、いいって言ってくれて、

D うん、いや、うん、なんかドア越しに中に人いる?沢崎さんいるってなったときは、もっとなんかもう大変なこと起きちゃったんじゃないかと思って、

C いや、そうですよね、

C わたしでもそう思うと思います、

D それでちょっと混乱しちゃって、申し訳ない、

C いやいや、

C 沢崎さん、ありがとうございました、

A なにが?

C おかげでわたしもご飯食べられました、

A あ、良かった、


    間。


D でもあれ、徘徊を防ぐとかってなると大変だね、

C そうすね、

D だって、そんな行き帰りの援助ついただけじゃね、

C まあ、

D 防げないタイミングとかめちゃめちゃあるでしょう、

C そうすね、

D なんかそしたらここ一面フェンスで覆うみたいなこととかになっちゃうのかね、

C 敷地全部ですか、

D 想像だけで話してるけど今、

C 刑務所みたいな、

D うん、そこまでじゃなくて、なんか小学校とかみたいな、

C 小学校みたいな、


    やや間。


C まあそのそういうことというより、高齢者とかそういった方向けの棟を、どこか一棟空いたら、そこを専用の施設にするっていう風に聞いてますけどね、

D うん、

C そうやってもうちょっと見守り?、やすいような形になっていくことにはなってますけど、

D そうか、

C それぞれの自宅にセンサーつけて、いなくなったらすぐそれが私達みたいな職員のがいるところでわかるようにするとかね、

D え、

C らしいですよ、
D すごいなんかSFね、
C そうですか?
D え、だってなんか、すごい、うん、 


    やや間。


D 私も別にもう行くところもないし、そのうちお世話になるもんだと思って、ここが今こういう高知さんがいてくれる、みたいな機能を持って、わたしもそうだけどそういう方々がこれからどんどん増えていって、そういう方向けに整えられていくってことは間違ったことじゃないと思ってるけど[C うん]、

D そうなっていくのね、

C そうなっていくって?

D なんか、監視されてるみたいな感じで、

C あー、

D すごいSFのイメージで、

C 引きずりますね(笑)、

D こう、こっちの動作に合わせ動いてきて、下からなんかマシンガンみたいなのでてきて撃ってくるっていうタイプのね、

C 撃たれるんですか、

D いますごいそういう、

C 映画みたいな、

D 映画みたいな、

D それをかいくぐってかわして、で敵を倒すっていう、

C 敵、誰ですか(笑)、

D 敵わかんないけど、

D なんかセンサーとか言われるとそういうのが浮かんじゃうね、

C はは、わかんなくはないですけど、


    やや間。

C でもなんかなんていうんですか、うまいこと言えるかわかんないですけど、[D うん]やっぱり制御しきれないから、そういう言い方悪いけど、そういう方を、目の届く範囲に置いておかなきゃいけないじゃないですか、そのときの目を広げる役割みたいなのことなのかな、と思いますけど、
D 目を広げる、
C なんかわかんないすけど、より見守る側の負担なく、そういうことをするための、
D そうねえ〈逡巡する〉、

    やや間。


D なんかなんていうの、見えないからさ、そのセンサーとかだと、

D 見えないものに見られてるっていう感じが嫌なのかな、なんか、

C ああ、

D そのセンサーの向こうで友達が見てるとか、思えたらいいのかね、

C かもしれないですね、

D なんかセンサーが可愛いといいんじゃない、

C かわいい?

D かわいい、

C かわいいって見た目がってことですか?

D そうそう、親しみがわけば、

C それで解決します?

D わかんないけど、

C しゃべるロボットみたいな、

D ロボットー、

D 親しみがわけば、

C 親しみがわく、


    やや間。

C 〈Aに〉なんだったら、可愛いですかね、
A なにが?
C センサーを搭載したロボット、
A センサー、
C センサーを搭載したロボットっていうとあれだけど、
C なんか、人を、こう、より見守りやすくするための、
A 見守り、
C や、見守りって言い方がなんか、正しいのかわかんないですけど、
A 見守り、
D 親しみの湧く見た目のロボット、
D どんなのがいいと思います?

              間。

A ドラえもんじゃない、
C ドラえもん、
D ドラえもんか、
A ドラえもんがいたらいいなとか、なんかちょっと恥ずかしいけど、
C 恥ずかしい、
A 恥ずかしいと言うか、小学生くらいだよね、ドラえもんいたらいいとか考えるのは、
D 確かに、
A なんかでもロボットっていうとドラえもん出てきちゃうな、
D ドラえもんだと、センサーはひみつ道具になるんじゃない、
A ひみつ道具懐かしい、
C ありそうすね、
A どこでもドアとか、やっぱほしいよね、
D 欲しいねー、
A いつまでたっても欲しいわ、こんな年とったけど、
C 確かに、
A だって、ドア開けたらどこにでもいけるんだよ、すごくない?
C 旅行し放題だ、
D いいね、
D 好きなところに、旅行し放題、
A いいねえ、

    ふと、ケイさんの電話が鳴る。誰も出ない。


D 出ないの?

A いや、

C 持ってないですよね電話、

A うん、ないない、


    誰も出ない。


C これケイさんのじゃないですか?

A ケイさん、

C 〈Aに〉なんで持ってるんですか、

A え?

D あれなんかさっき、電話してなかったっけ、

C え、そうなんすか、

A え?

D なんかそこの扉、鍵かかってたとき、

A 鍵?

D 誰かとお話してなかった?

A わたし?

D うん、

A そうだっけ、

D いや、わかんないけど、


    やや間。


C あ、すみません、あれだ、わたしが置いてっちゃったんだ、

D え、

C 清水さんからケイさんのって財布と電話を預かって、でそれをここに置いたままわたしご飯食べ行っちゃたんだ、

D あ、そういうことか、

C だから、なんでとかじゃないわ、ちょっと勘違いしてた、

C すみません、

A いやいや、

C その間も電話かかって来てたんですか?

A その間って?

C ああ、一人でいたときも、

A わたしが、

C そうそう、

A どうだっけ、


    間。


C なんか履歴とか見たらわかるか、


    C、携帯を調べるが、ロックがかかっていて開かない。


C 開かない、

C そりゃそうか、

C でも電話したんだ、

D なんかしてたと思うよ、見てないけど、

C [Aに]ケイさんの友達とかからかな、

C わかんないか、


    間。


A ああ、でもなんか海に行ったっていう話をさ、

A 海に行ったっていう話をしたよ、電話で、

C そうなんだ、

A 遠藤さんと海に行ったって話を、

D 沢崎さんが?

A そうそう、

C えー、その電話相手にってこと、

A そう、


    やや間。


C そうなんだ、

C びっくりしてたでしょ、

C その、電話の向こうの人、

A どうだっけな、

D なんて人?

A 電話の人?

D そうそう、

A なんだっけか、


    やや間。


A 忘れちゃった、

D 友達か、

C そうじゃないかな、

A でも色々話せたよ、

C そっか、

C それはよかったね、

A うん、良かったって言ってた、

C あ、お互いに

A うん、

C じゃあ見つかったらまた電話しないとね、

A そうだね、


    やや間。


D 戻ってこれるといいね、ケイさん、

A そうね、本当に、


    間。


A ちょっと煙草吸ってきていい?

C なに、

A 突然ですが、

C 突然、

C どうぞ、


    やや間。Aは立ち上がって、扉から出ようとして、


A これは、行っていいの?

C え、

A ひとりで、行っていいの?

C ああ、


    間。


C すみません、じゃ一緒に行きましょうか、

A うん、

C 煙草あるんですか?

A (手元を探して、見つけ)うん、まだある、

C あ、良かった、

C 清水さんに買ってきてもらうんですよね、

A そうだっけ?

C うん、さっき言ってましたよ、

A そっか、そうだったかも、

C じゃあすみません、行ってきます、

D うん、

D 沢崎さん、またね、

A うん、また、


    A、Cが去り、Dは一人になる。長い間。


Scene7


時間が経っていて、また別の日。Dが集会場にいる。Bが来る。

Bはキャリーバッグを持っている。集会場の外では、子どもが遊んでいる。


B どうも、

D あ清水さん、久しぶり、

B 日高さん、お久しぶりです、

D ねー、いつぶりだろう、

B いつだろう、

B フリーマーケットのときは?

D いや、今年は行ってないな、

B そっか、

B じゃあ相当久しぶりかもですね、

D ねー、 

D まいさんも元気?

B はい、相変わらず、

D そりゃ良かった、

B 高知さんは?

D さっき、ご飯行った、

B あ、そっか、


    やや間。


B 今日休みでしたっけ、

D え、

B 木曜ですよ今日、

D ああ、

B 子ども、なんでいるんだろう、

D あーなんだろうね、

D 確かに、こんな時間に、


    やや間。


D どっか行くの?

B 仕事で、関西に、

D へー、関西、

D 結構長いの?

B いや、週明けには帰ってきます、

D そうか、

D 楽しんで、

B ありがとうございます、

B まあ、仕事ですが、

D そうか、

D でも楽しめるといいね、

B ねー、楽しむ時間があればいいけど、

D そうねー、


    やや間。


B 沢崎さん来ました?

D あ、今日はまだ、

D 昨日はいたよ、

B そうなんだ、

B 日高さん最近結構来るんですか、

D 集会場?

B そうそう、

D うん、結構、

D ようやく落ち着いたから、

B ああ、

D 色々手続きとか大変だったよ本当に、

B お疲れさまでした、

D いやいや、

D ほんとにね、思ってるのの何倍も大変だった、ほんと色んなところと契約したりなんだりで名前書かされてんだね、人っていうのは、

B 人っていうのは、ほんとにねー、

D ポイントカードとかはまだ手つけてないけど、なんならほっとくかくらいの感じで、でも携帯とか、銀行口座とか、ほんと大変だった、

D 一個一個はともかく、数が多くて、

B お疲れさまでした、


    やや間。


D なんか一昨日、駅前に去年まであった駅ビルみたいなののポイントカードのなんていうの、更新のお知らせ?DMみたいなのが来て、サトシさん駅ビルのポイントカードなんて作る人だったんだって知らなくて、意外だなーって、[B うん]

D 駅ビルももうないし、サトシさんも亡くなったのに、DMだけは来るんだって思ってね、そのうち解約するけど、まだ放っておいたままにしてる、

B まあそんな頻繁に来るもんじゃないし、

D そうそう、

D まあそういうのが一通りとりあえず一段落して、だからここも来たりとかするように、最近ようやくなったかな、

B そうなんですね、


    間。


B 最近、ケイちゃんの出て行ったときのことを考えてて、

D あれ、まだ戻ってないでしょ、

B 戻ってないです、

D お父さんも元気かね、

B どうですかね、

D 病院行った?

B いや、行ってないです、

D 行けたら行ってもいいのかね、

B ああ、いいんじゃないですか、

D そっか、タイミング見つけて行けたら、


    やや間。


D あれ、なんだっけ、

B あ、あの、

D ごめん話、遮っちゃって、

B いやいや、

B あの、ケイちゃんとわたしは、ケイちゃんがこっち戻ってきてからは特に話したりとかそんなにしてなくて、(もともと)親同士はまあまあ仲良かったけど、うちらは別にって感じだったし[D うん]、タイミングもなかったていうのもあるし、特別話したりすることはなくて[D うん]、

B だから、介護で戻ってきたっていうのは聞いてたけど、なんか、いなくなっちゃって、そんなになるまで大変だったっていうのには気が付かなくて、

D ああ、なかなかわかることじゃなさそうね、

B いや、


    やや間。


B あの、朝、見た気がして、

D え?

B ケイちゃんが家を出ていくところ、見た気がするんです、

D それは、その行方不明になった朝に?

B そうそう、

B 朝6時過ぎとか、結構早かったと思うんだけど、なんか炭酸飲みたくなって食堂のとこの自販機まで行って買って、戻ろうとしたときに、そんときに手ぶらで階段降りてくるケイちゃんがいて、[D えー、]すれちがって、

D 声かけたりはしなかったの?

B いや、朝こんな時間に珍しいなって思ったは思ったけど、なんか用事あるのかなって思ったすけど、

B 会釈くらいはしたかな、

D うん、

B で向こうは反応がなくて、

D そうなんだ、

D なんかそういう雰囲気もなくて?

B 雰囲気、

D なんか思いつめてるみたいな、

B いやー、わかんない、

B わかんないすね、

D そうか、


    やや間。


B だから、あれ止められたかなって思うんですけど、今このままその場面に戻ってもかなりわからないなって思うんですよ、

D そうなんだ、


    間。


B それでそれから結構、どこいったかわかんなくなってから考えてるんですけど、

B 個人的に、自分にあてはめて考えると、ほっといてくれっていう気持ちもあるかなって思って、

D ほっといてって?

B なんか、わかんないけど、ふらっと出てしまったらしまったで、そういうもんだっていうか、ケイちゃんなんで出たのかわかんないですけど、どこ行ったのかわかんないですけど、いなくなったらいなくなったで、それは自由なんじゃないかって思うところもあるんですよね[D ああ]、なんかそう考えたりもして、

D 自由か、

D そうかなあ、

B いや、わかんないですけど、

D どうだろうね、


    やや間。


D どこ行くんだろうね、

D どこに行きたいんだろう、

B どこでしょうね、

D 行った先にたくさん人がいるとかなら楽しいけどね、

B そうすねー、

D わかんないけど、友達とかがいるなら、いいのかなあ、

B やー、どうでしょう、

D うーん、

   

間。集会場の外にAが見え、Aは集会場を通り過ぎる。


D あれ、沢崎さんじゃない?

B ホントだ、

D どこいくんだろう、

B さあ、

D 食堂?

B かもしれないすね、


    やや間。


B あ、というかわたしもいかなきゃ、

D ああ、

D バス、間に合う?

B (携帯を確認して)まだ、大丈夫、

D 良かった、

B じゃあ、

D わたしも行ってみようかな、

B え?

D 沢崎さん見がてら、

B 見がてら、

D 何処もいかないなら、戻ってくればいいし、

B ああ、そうすね、

B 行きましょういきましょう、


    B、Dが去る。舞台は空っぽになる。




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